■■■建築に生きる 第4回 建築家という職能■■■
2023.07.21
第4回 建築家という職能
職能としての建築家
「職能」という日本語はわかりにくい。欧米社会では医師や弁護士など社会に貢献することを第一義とする仕事が職能とされ、建築家もまた重要な職能と認知されてきた。
日本では医師には医師法が、弁護士には弁護士法があるが、建築家法はない。あるのは「建築士法」であり、建物を設計監理できる技術者基準を定めているが、この法律の建築士の定義は、欧米に根付く職能としての建築家とは幾分異なる。
日本建築家協会の「建築家憲章」では「社会的・文化的な資産を継承発展させ、地球環境をまもり、人間の幸福と文化の形成に貢献」するのが建築家だとしている。単に建物を設計するだけではなく、芸術的感性に基づく創造行為として業務を行うことなどに建築士との違いを訴えている。
“SOU ARQUITETO”と名乗るには単に一級建築士資格を持っているだけではなく、社会性、文化性、芸術性への自負が必要なのだ。
JIAとUIA
国際建築家連合(UIA)は1948年にスイス・ローザンヌに設立されて以来、124の加盟国・地域を持つ、建築家の職能ネットワークの非政府組織(NGO)である。そして日本を代表して加盟するのが日本建築家協会(JIA)なのだ。
2011年にはUIA世界大会が東京で開催され、世界中から多くの建築家が集まった。私は日本の組織委員会の一員として財務部会長を担当した。
オリンピックに似た誘致合戦が過酷で、私は1993年のシカゴ大会から誘致活動を続けた。各国での大会に参加すると国王や大統領級が基調講演するなど、建築家の祭典が高く評価されていることを知り感動した。2011年の東京大会の式典では上皇・美智子妃をお迎えできたことで安堵したのであった。
日本の建築はその伝統故に、そして近年の高度な建設技術に支えられた建築先進国として世界から注目されている。がしかし、建築家の社会的認知度は低く、課題も多いのが現実である。
建築士と建築家
一級建築士試験をめぐり悲喜交々が繰り返される。加熱する受験戦争に、私のブラジルでの経験を少々ここに開陳することで、横槍をいれてみよう。
サンパウロの事務所で一年もすると私のもとに、多くの仲間たちが何でも聞きにくるようになり「エンサイクロペディア南條」なんて呼ばれた。たしかに法規、構造、設備、素材、施工等々、一級建築士試験合格直後の私は多くの知識を記憶していた。
だが、ここがポイントなのだが、何でも知っている私を重宝したのは事実だが、皆が私を不思議がるだけで涼しい顔をしていた。自分たちは関係ない、と。
目指すべき建築家像にブレがなければ、技師やドラフトマンたちに任せれば良い細々とした知識を追うよりも、感性を磨き上げることや人脈を築き上げることの方に彼らは関心があるのだ。そう、そこが建築士と建築家の決定的な違いなのである。
“EU SOU ARQUITETO!”
記・南條洋雄
■第1回 建築を愛しなさい■第2回 建築家=指揮者
■第3回 小さな村の物語