■■■建築に生きる 第5回 デザイン監修論■■■

2023.08.04

第5回 デザイン監修論


集合住宅設計の現場

建物に求められる機能が極めて高度かつ複雑な病院や空港などの設計は、専門性を極めた特定の建築士に限定される傾向にあった。
一方「住宅」は全ての建築士にとってのある設計対象だった。集合住宅も多くの建築士が設計してきたが、この20年ほどの間に状況が一変し、ごく一部の専門設計集団しか対応しかねる状況になってきている。
住宅性能評価が定着し、設計は高度化し認定申請労務が激増した。綜合設計制度や天空率の適用など様々な形態規制緩和が設計の難易度を高め、許可や認定申請労務が設計者を圧迫する。
1994年制定の製造物責任法(PL法)で分譲住宅の製造者責任が問われることになり、消費者クレームは急増し、デベロッパーもゼネコンも設計責任に過敏になった。こうして今日の集合住宅設計の現場は、文化的な創造行為とはかけ離れた、性能追求と軋轢回避を優先する過酷な労働現場となっている。


設計分業という選択肢

建築を学んだ者なら思い出す設計演習室の現場。周辺環境や景観の分析エスキース模型制作そしてドラフトへ。現代ではCAD入力やCG制作によるデザイン検討など、そんな設計の現場を想像するであろう。
ところが集合住宅の設計の現場は一変してしまった。まず模型などつくる時間は無い。高性能のコンピュータを駆使してのミリ単位の斜線制限突破や日影規制クリアに明け暮れる日々。バリアフリー対応しハイサッシを確保し、防水、遮音、断熱などの要求性能値を満たし、梁形を隠し天井高を1ミリでも確保する戦い。それらの図面化審査機関との打合せにコスト検証。最後に販売床面積を確定する面積計算書の作成。これらはどう見ても創造的行為とは言い難い。
追い詰められた現場はここで「設計とデザインとの分離」という設計分業に着目したのであった。
「二兎を追う者は一兎をも得ず」
こうして「デザイン監修」という新しい役割が定着したのだ。


デザイン監修者とは

こうして南條設計室では多くの集合住宅のデザイン監修業務を行うようになった。デザインコンセプト立案、景観審査対応、コスト調整、現場での素材選定詳細検討インテリア家具選定、そして販売協力など、設計者業務の一部をデザイン監修者として関わる手法を構築してきた。
このデザイン監修という役割には、今のところ法的な位置付けが無い。この分業において設計者が担う役割は、技術面の決定に重点がおかれ、デザイン監修者が担う役割は外観や外構空間の修景や共用部分の空間性提案が主であり、欧米型建築家の関心領域に近いとも言える。
とはいえ南條設計室は、従来型の設計監理の実務をもちろん行っている。今日的設計の現場を前述したが、まさにその全てを我々も行なっているのだ。設計の現場を把握できていることは重要だ。デザイン監修者として別の設計者と協働する場面において、両方の立場を理解できていることが大切だと承知している。


記・南條洋雄

■第1回 建築を愛しなさい
■第2回 建築家=指揮者 
■第3回 小さな村の物語
■第4回 建築家という職能