■■■建築に生きる 第6回 まちづくりに参加する■■■
2023.08.18
第6回 まちづくりに参加する
飯田のまちづくり
伊那谷の飯田に毎週通い続けた。新宿から高速バスで4時間半は遠いし、積雪で8時間かかったこともある。2001年その街の中心部にトップヒルズ本町が竣工した。食品スーパーや市役所分館ができて、シャッター通りだった中心市街地に活気が戻ってきた。飯田初のエレベーター付き高層住宅が人気で販売は即完だった。
この建物は市街地再開発事業でつくられた。多くの地権者が共同で行う「まちづくり」の成果であり、地方都市型の「身の丈再開発」の優等生として全国から注目された。
既存の土蔵を曳家という手法で保存再生した。地権者住居は個別に要望を聞き設計対応した。中間免震構造を採用して大型店舗内の壁を無くした。設計から工事監理まで5年間通い続けた結果、地権者とも仲良くなり、何組もの地権者から新居での夕食に招かれた。2021年には20周年パーティにも呼んでくださり、街の発展を共にお祝いできた。「まちづくり」の喜びがそこにある。
狭山のまちづくり
西武新宿線の狭山市駅西口周辺のまちづくりに建築家として15年ほど関わった。基礎調査、基本構想、基本計画などプランニングを担当し、その後は街全体の建築および都市空間のデザイン全般をとりまとめる総合デザイン調整者をつとめた。
商業、福祉、教育、文化、観光、交通など、多くの関係者が将来の街の姿を語り合い議論する。それがまちづくりの現場だが、将来像をわかりやすく描き出しながら議論をまとめ上げる、いわば歌劇の指揮者のような役割を建築家が担うのだ。
こうして、狭山市駅西口再開発事業は「スカイテラス狭山」となって結実した。デザイン面では「狭山らしさ」の表現に議論が集中した。地形と景観の特性に配慮し、正面に建物を敢えて建てず、デッキおよび広場が秩父連山に開かれた、他駅とは全く違う明快な駅前空間が実現した。
こうして南條設計室の狭山のまちづくりは、都市景観大賞、土木学会賞、グッドデザイン賞を受賞した。
青梅のまちづくり
飯田の再開発に続いて青梅駅前の市街地再開発事業を担当している。東京都ではあるが、青梅市では都心型再開発ではなく、地元商業機能の刷新、市立図書館建設による駅前地区の多様化、そして老若人口増を目標とする「まちづくり」である。
現在は建設コストの最終調整段階にあり、既存建物の解体工事に着手し、本格着工目前の段階である。
再開発事業の設計は、都市計画の手順に沿って進められ、基盤整備関連や補助金関連作業が煩雑である事や、地権者やデベロッパーなど施主側の関係者が多いなど、普通の建築設計業務より手強い仕事である。
しかも、社会的な変化、とりわけ不動産市況や建設物価などの影響を受けやすく、その結果事業が滞ったり中断することも多い。一刻も早い建物の竣工を夢見る設計者としては、必ずしも心地よい仕事ではないかもしれない。産みの苦しみは否めないが、その分、まちづくりの成功はこれまた建築家の冥利に尽きるのである。
記・南條洋雄
■第1回 建築を愛しなさい■第2回 建築家=指揮者
■第3回 小さな村の物語
■第4回 建築家という職能
■第5回 デザイン監修論