■■■建築に生きる 第9回 美しい国づくり■■■

2023.09.29

第9回 美しい国づくり


美しい国づくり政策大綱

「都市には電線がはりめぐらされ、緑が少なく、家々はブロック塀で囲まれ、ビルの高さは不揃いであり、看板、標識が雑然と立ち並び、美しさとはほど遠い風景となっている。」これは2003年7月に国土交通省が公表した「美しい国づくり政策大綱」の前文の一部である。国家がそれまでの都市政策の過ちを公に認めた事実は驚愕であった。翌2004年「景観緑三法」が全面施行されて今日に至る。
あれからはや20年経過した今、建築行政で「景観審議」は定着したし、民間不動産開発の現場でも景観デザインが販売上も評価されるつつある。しかし冒頭の「都市には電線がはりめぐらされ・・・」が改善されたとは言い難い。
一貫して都市景観向上こそが建築家の最大の使命であると考えていた私は、 「土田旭+都市景観研究会」の世話人として「日本の街を美しくする」(学芸出版社2006年)の上梓に参加した。


小田原市景観評価員

2006年制定「小田原市都市景観条例」が注目された。景観法を受け全国に先駆けてかなり思い切った景観誘導を制度化したからである。
建築確認申請に先立ち「景観評価員」が審査し、市の定める景観整備方針の遵守を建築主に義務付けた点が画期的である。私は初代の景観評価員(建築デザイン担当)を拝命し2020年まで務めた。
その間多くの建築物の評価を行い、デザイン上の是正を求める場面も多かったのだが、建築主ならびに設計者の景観への認識は着実に向上していった。
近年竣工した「三の丸ホール」や「ミナカ小田原」ほか、大小様々な建設に対する景観誘導を行なったが、初期には苦労した内容も近年では比較的スムーズに理解され受け入れられるようになり、景観への意識が官民両面で進歩したと思う。小田原での経験は、設計者としてではなかったが、私の考える「建築家」の社会的使命の実践であり、貴重な経験であった。


景観デザインレビュー

景観等を通じた良好な景観形成・まちづくり推進協議会」という長い名の組織が2009年から活動している。国土交通省住宅局市街地建築課の国家予算で運営されており、私は発足よりワーキンググループの委員を務めている。
イギリスのCABEをヒントに、日本でもデザインレビューによる景観誘導を定着させようというもので、マニュアルを出版したりセミナーを開催したり、啓蒙活動を行なって来た。近年では「那須塩原市図書館みるる」や「大井町駅前公衆便所」などで成果をあげ評価されている。
そもそも事業者や設計者にとって、より良い景観を完成させることはメリットであるはずなのに、景観審査会などをなぜか警戒視する傾向があることが残念だ。「建築的!」な日本社会に成長する過程と思い精進したい。南條設計室の一連の仕事「住宅から都市デザインへ」は、初めからデザインレビューを自作自演しているのだ。

参考リンク:まちを変える景観デザインレビュー(出典:国土交通省・都市環境研究所)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/keikandesign-panf.pdf


記・南條洋雄

■第1回 建築を愛しなさい
■第2回 建築家=指揮者 
■第3回 小さな村の物語
■第4回 建築家という職能
■第5回 デザイン監修論
■第6回 まちづくりに参加する
■第7回 リノベーション最前線
■第8回 住宅が建築の原点
■第10回 美しい職場・楽しい職場
■第11回 建築家は芸術家か
■第12回 建築家も地震と戦う
■第13回 建築家は旅をする
■第14回 マンションと呼ばないで!
■第15回 建築家という生業
■第16回 建築と神事
■第17回 建築家は外交官
■第18回 正月の警鐘
■第19回 協働・自働・己働
■第20回 建築家は二兎を追う
■第21回 コンペという魔物
■第22回 ボランティア考