■■■建築に生きる 第7回 リノベーション最前線■■■

2023.09.01

第7回 リノベーション最前線


リノベーションが主役

古い建物はさっさと壊して新しい話題作に建て替える事こそが、社会の発展繁栄の象徴であり、多くの建築家が主役であった。今もその流れは変わらない。いちょう並木の保全で注目を浴びる神宮外苑の再開発事業はその典型例だ。
パリやローマの市街地を思い起こしてみよう。何度訪問しても旧市街地に新築ビルなど見たことがない。空地もなく解体もしないのだから、建築家の仕事はリノベーションしか無いのである。
ロンドンでは古い発電所をテートモダンに、パリでは古い鉄道駅をオルセー美術館にリノベーションした。欧州では修道院をホテルに、倉庫をレストランに、ワイン工場をショッピングセンターにと、リノベーションは主役なのだ。
南條設計室が本格的にリノベーションに取り組んで10数年になる。最初は名古屋市本山の古い企業社宅を分譲住宅に作り変える仕事でReBITA社とのリノベ第1号だった。


壊さないのが建築家

古い建物の場合、新築時の設計図書や計算書などが見つからず、耐震設計基準も未達が多く解体されるケースが多い。技術的合理性や事業性から必然とされてきたのだがこの10年で一変した。SDGsが常識なのだ。
ややもすると壊す側に立ってきた建築家は、いち早く反応した。私は1989年に日本建築家協会保存問題委員会の初代の副委員長を経験した。近年では国立競技場も改修が正論と思っているし、丸の内の東京海上火災ビル建替も反対だ。神宮球場も伊藤忠本社ビルも全て壊すという。
古都京都も寺社庭園などを除けばほぼ全ての建物が建て替えられて伝統的な美しい街並みが消滅してしまった。社会は、とりわけ建築家は猛省しなければならない。
職能論の項で少し触れたが、建築家は建設技師である前に、社会性・文化性を備え、環境を重んずる職能人でなければならない。
南條設計室はこの10年、いかにして建物を保存利活用するかを追求し続けている。


リノベは小劇場

リノベーションを巡ってこの十年間、世論が動き、行政や建設業界の対応も顕著に前向きに変化してきた。
リノベーション設計では新築とは異なる特殊な知識と経験が必要だ。南條設計室はReBITA社との経験から多くのノウハウを取得した。三菱地所レジデンス、住友林業、NTT都市開発などとも事業を進めており、リノベーション系の業務が全体の30%を超え主要業務として定着した。
リノベーションは、戸建や集合住宅住戸のインテリアリフォームから一棟丸ごとのリノベーションまでいろいろある。シェアハウス、シェアオフィス、学生寮などへの再構築も面白いし、耐震化工事がメインの大規模改修もある。
比較的規模は手頃だし、調査から設計、施工、竣工まで短期間で完結するのもうれしい。リノベーション業務は小さな建築家集団に向いている。小さくても建築的要素は満載であり、小劇場の舞台監督のような立ち回りは実に心地よい。


記・南條洋雄

■第1回 建築を愛しなさい
■第2回 建築家=指揮者 
■第3回 小さな村の物語
■第4回 建築家という職能
■第5回 デザイン監修論
■第6回 まちづくりに参加する
■第8回 住宅が建築の原点
■第9回 美しい国づくり
■第10回 美しい職場・楽しい職場
■第11回 建築家は芸術家か
■第12回 建築家も地震と戦う
■第13回 建築家は旅をする
■第14回 マンションと呼ばないで!
■第15回 建築家という生業
■第16回 建築と神事
■第17回 建築家は外交官
■第18回 正月の警鐘
■第19回 協働・自働・己働
■第20回 建築家は二兎を追う
■第21回 コンペという魔物
■第22回 ボランティア考