■■■建築に生きる 第14回 マンションと呼ばないで!■■■ 

2023.12.08

第14回 マンションと呼ばないで!


MAN-SION

手元の OXFORD ADVANCED LEARNER’S DICTIONARYで日本語のマンションの発音に近い単語を検索すると man-sion という単語に出会い、その意味は large and stately house であり、自動翻訳すると「大きくて立派な家」となる。
ポルトガル語では mansão で「広い空間と洗練された贅沢を兼ね備えた邸宅」と説明されている。
日本では「駅前のタワマンが一億円を超え!」などと叫ばれているが、数年後には万ションは死語と化し億ションばかりになるようだ。その時、英語の辞書には oku-sion なる新語が登場しているのだろうか。
私はマンションという日本語が大嫌いだ。南條設計室でこの言葉は禁句であり「集合住宅」と呼ばなければならない。
残念ながら新聞やテレビではマンションという単語が頻出する。私は不愉快でたまらない。そのうち「オクション規制法」なんて法律ができたら日本脱出しかなさそうだ!


アパートメント

日本の住宅史で「集住」はいわゆる「長屋」に始まる。京都の「町屋」も集合住宅の日本版といえよう。
時代は飛んで1916年今は廃墟として観光客に人気の長崎県軍艦島に、我が国で初めての鉄筋コンクリート造の集合住宅が誕生する。その後同潤会アパートが当時の先進的エリート層に人気となり、戦後の高度成長では団地ニュータウンが大量に建設された。
今日のように民間デベロッパーが大量の集合住宅を供給するようになるのは70年代以降であり、アパートメントと呼ばれていたが、おしゃれ感覚競争でレジデンス、メゾン、ドエル、コーポ、ハイツ、コンドミニアムなどのネーミングが流行した。
マンションという呼称が何千万円もする高額な買い物に相応しいネーミングとして定着したというのが俗説だが、海外でマンションと言えば豪邸を意味するので、今や日本人の多くが巨大な一軒家に住んでいると誤解を受けているのでは?


都市文化と集合住宅

70年代に急成長する日本経済への警鐘ないし皮肉からか「ウサギ小屋」論争が起きた。日本人は粗末で小さな住宅に住んでいるのに文句ひとつ言わずに黙々と働いていると欧米社会から揶揄された事件だった。
日本政府もマスコミも即座に猛反発したのだが、建築・都市を学ぶ私はむしろ「その指摘、ズバリでしょ」と感じたのだった。
中世から続く西欧の都市の空間は集合住宅で埋め尽くされている。空間密度は高く戸建て住宅など存在しない。その代わりに都市を少し離れれば壮大な田園地帯に住宅があってその多くがまさにマンションなのだ。
都市文化は集合住宅文化と表裏一体だ。我が国の集合住宅の歴史はまだ浅く、半世紀に過ぎない。
今日的課題は、少子高齢化や地球環境への対応に変わった。都市の在り方都市での棲み方が大きく変わりつつある。より豊かな集合住宅を、より豊かな都市空間を実現することが建築家に求められている。


記・南條洋雄

■第1回 建築を愛しなさい
■第2回 建築家=指揮者 
■第3回 小さな村の物語
■第4回 建築家という職能
■第5回 デザイン監修論
■第6回 まちづくりに参加する
■第7回 リノベーション最前線
■第8回 住宅が建築の原点
■第9回 美しい国づくり
■第10回 美しい職場・楽しい職場
■第11回 建築家は芸術家か
■第12回 建築家も地震と戦う
■第13回 建築家は旅をする
■第15回 建築家という生業
■第16回 建築と神事
■第17回 建築家は外交官
■第18回 正月の警鐘
■第19回 協働・自働・己働
■第20回 建築家は二兎を追う
■第21回 コンペという魔物
■第22回 ボランティア考