■■■建築に生きる 第22回 ボランティア考■■■

2024.03.29

第22回 ボランティア考


ボランティアとは

能登半島地震関連ニュースでボランティアという単語が頻出している。
広辞苑をみると「(義勇兵の意)志願者奉仕者。自ら進んで社会事業などに無償で参加する人」とある。
ブラジルで自動車のハンドルのことをヴォランチ(Volante)と言い、国民的スポーツであるサッカーのミッドフィルダーの事も同じくヴォランチと呼ぶ。ヴォランチの役割は「舵取り=司令塔」であり自動車のハンドル(舵)が語源だとある。 さて日本語のボランティアの意味が「無償」にあるとするのが一般的だが、ブラジルのヴォランチに無償という意味合いは無い。
語源辞典ではアメリカの社会福祉民間活動団体(Volunteer of America)の名称に由来するとあるし、日本では渋沢栄一の地域福祉活動などでボランティアという言葉が定着した、とある。あくまでも慈善福祉において志願や司令に就く行為を指すのであって無料奉仕が主意ではない、と私には思える。


生涯ボランティア

世にはボランティアに一生を捧げる人がいる。家族も家も車もあるから資産家なのかと思うとそうではない。給料をもらっているのだ。
日本語の語感が無料奉仕を想起させるが実はボランティアも正当な報酬を得ることに矛盾はないのだ。慈善事業福祉事業に永続的に従業する人々こそ本来のボランティアであり、そこから報酬を得て家族を養い一生ボランティアを続ける。
話変わるが日本では建築の設計事務所のほとんどが株式会社であり社長は建築家である。いうまでもなく株式会社は一義的には株主の利益のために活動する。しかし建築家の多くは、利益のために仕事をしているわけではなく、又、利益を上げられていない建築家も多い。いわば無料奉仕に近い実態であるから、建築活動もボランティア(的)と思いたくなるような実態が存在する。
当コラム第四回で職能について論じたがPROFESSIONVOLUNTEER、ともに日本語の定義が難しい。


ノンプロフィット

特定非営利活動法人NPO法人)が1998年に誕生した。ボランティアが無料奉仕であるのに対し、NPO法人勤務では給料が支払われるのが当たり前のようだ。
建築家の活動が利益を目的としていないとする立場、ないし実態からすると、建築家の組織は営利を目的としないNPO法人に近いとも言える。
話変わるが医者も弁護士も株式会社ではないし、病気や法律の相談先の利益率決算状況をチェックする人はいないだろう。同様に家やビルを建てるための相談先として建築家を探すとき、作品評判を品定めすることはあっても決算を取り寄せる人は少ないと思う。がしかし、建築設計事務所は株式会社なのである。
職能法としての建築家法が存在しないため、建築家という限りなく非営利の活動への法人格が現行制度では株式会社しかなく、民間企業も官庁も建築設計事務所の評価を株式会社の決算内容で行うという不整合な状況が続いており、解決の突破口もまるで見えない悲しい状況なのだ。


記・南條洋雄

■第1回 建築を愛しなさい
■第2回 建築家=指揮者 
■第3回 小さな村の物語
■第4回 建築家という職能
■第5回 デザイン監修論
■第6回 まちづくりに参加する
■第7回 リノベーション最前線
■第8回 住宅が建築の原点
■第9回 美しい国づくり
■第10回 美しい職場・楽しい職場
■第11回 建築家は芸術家か
■第12回 建築家も地震と戦う
■第13回 建築家は旅をする
■第14回 マンションと呼ばないで!
■第15回 建築家という生業
■第16回 建築と神事
■第17回 建築家は外交官
■第18回 正月の警鐘
■第19回 協働・自働・己働
■第20回 建築家は二兎を追う
■第21回 コンペという魔物