■■■建築に生きる 第23回 リゾートを建築する■■■

2024.04.12

第23回 リゾートを建築する


リゾートライフ

バカンスという言葉、日本人には馴染みが薄い。GWで9連休が成立すると大騒ぎだが、通常は三連休でも持て余す。対してブラジル人は遊びの天才だ。原則年に1ヶ月の有給休暇が義務化され、10〜20日以上のバカンス取得も珍しくない。
大都市周辺には多くのリゾート地があり、週末は必ず滞在する二拠点居住も浸透している。サンパウロの代表的リゾートはグアルジャ Guarujáと呼ばれるビーチで、富裕層が別荘を構えている。
これらリゾート地のホテルや個人別荘などは建築家にとっての腕の見せどころであり力作が多い。
10年間のブラジルでの設計活動では、これらリゾート系プロジェクトをいくつも担当した。今でも記憶に刻まれているのが、二つのビーチリゾート開発、サンパウロ州のPraia de Mococcaとペルナンブーコ州のPraia de Sauipeだ。壮大な敷地規模とその自然に身を置き構想を練る、まさにブラジル国のスケールと無限の可能性を実感した瞬間であった。


ヨットハーバー

1985年帰国して事務所を始めた。当時の日本は経済発展でヒートアップしており、ブラジルでの本格的リゾート体験を糧にいくつかのリゾート開発に参加する機会を得た。
十勝岳の裾野の白金温泉にあるゴルフ場を通年型リゾートに改造するプロジェクトに呼ばれた。北海道では敷地も広大で、ブラジルで鍛えたスケール感は大いに役にたった。
横須賀市浦賀の造船所を再編するプロジェクトにも参加した。閉鎖した造船ドックを再利用して、富裕層向けハーバーリゾートを建設する計画だった。ブラジルで培ったリゾート的遊び心を取り入れた、曲線を強調した独特な建物イメージが事業主から好感され、開発許認可・建築確認申請を取得するまで進捗したのだが、バブル崩壊という歴史的事態で開発計画は中断した。
先進事例研究でロスのMarina del Rayはじめカリフォルニアの様々なリゾートを体験した。世紀を超えた今、経済低迷でこのようなリゾート実現は遠のいてしまった。


余暇からの飛躍

大学で都市計画を学んでいた頃、余暇という言葉を学んだ。余った暇な時間をどう過ごすかが余暇学であり、研究も盛んであった。だが、これからのリゾートは仕事の合間の余暇の場ではなく、人生の全道中を謳歌するための施設・場であるべきだ。真の豊かさとは、余暇時の豊かさではなく、万人の生涯を通じての豊かさだとブラジル人が教えてくれた。
住宅の豊かさが問われているが、リゾートの豊かさを後回しにしてはいないか。整備された都市インフラに支えられた日常だけではなく、自然との対峙や静寂、あるいは趣味や文化に興ずる時間など非日常異日常も差異なく大切なのではないか。
急激に進む高齢化社会への対応では、膨大な人口比を占める後期高齢者の生きがいにもリゾートライフは重要だ。リゾート開発と協調した地域社会整備は地方の活性化人口定着に寄与するのではないか。リゾートを考えること、それは建築家の仕事なのではないだろうか。


記・南條洋雄

■第1回 建築を愛しなさい
■第2回 建築家=指揮者 
■第3回 小さな村の物語
■第4回 建築家という職能
■第5回 デザイン監修論
■第6回 まちづくりに参加する
■第7回 リノベーション最前線
■第8回 住宅が建築の原点
■第9回 美しい国づくり
■第10回 美しい職場・楽しい職場
■第11回 建築家は芸術家か
■第12回 建築家も地震と戦う
■第13回 建築家は旅をする
■第14回 マンションと呼ばないで!
■第15回 建築家という生業
■第16回 建築と神事
■第17回 建築家は外交官
■第18回 正月の警鐘
■第19回 協働・自働・己働
■第20回 建築家は二兎を追う
■第21回 コンペという魔物
■第22回 ボランティア考