■■■建築に生きる 第25回 音楽は楽しい■■■

2024.05.10

第25回 音楽は楽しい


ヴァイオリン

幼稚園の頃ヴァイオリンを始めた。中学1年まで続けたが野球部に入り中高六年間はヴァイオリンを返上したのだが、ブラスバンドに勧誘されトロンボーン、クラリネット、フルートなどをかじってしまった。大学受験時代に来日したカラヤンなどに興味をもち、東京大学入学と同時に管弦楽団に入部し、1965年の欧州演奏旅行に参加する幸運を得た。ブラジル時代は室内楽団に所属し、弦楽四重奏団ではヴィオラを弾いていた。なんと70年間もヴァイオリンを弾いているのだが一向に上達しない。
中高時代はフォークソングベンチャーズに憧れ、ビートルズに魅了されていた。クラシック音楽の愛好家の多くは、クラシックが最高の音楽と思うようだが、私はどんな音楽にも惹き込まれてしまう。二兎を追ってしまうのだ。最近では様々なヴァイオリン演奏にチャレンジしている。ヤマハの電子ヴァイオリンで葉加瀬太郎の情熱大陸を真似したりして・・・。


オーケストラ

私の人生に大きな影響と喜びを与えてくれたのは音楽で、とくにオーケストラは最高だ。ヴァイオリン弾きではあったが、菅・弦・打の全ての楽器との競演は快感だったし合唱付やバレー・オペラなども経験できた。
日本初の西洋音楽団が明治時代に旧帝大の有志により誕生した。上野の音楽学校(今の芸大)もNHK交響楽団もなく、旧海軍軍楽師の瀬戸口藤吉が指揮者だったそうだ。
私は1968年度のオケ部の学生代表(総務と呼ばれた)だった。団員は100名を超え、演奏旅行や定期演奏会などの事業主体でもあり、ちょっとした企業トップに近い役割を経験した。69年1月19日の安田講堂事件のまさにその時刻に上野の東京文化会館大ホールで定演を決行した責任者でもあった。
こうしたオーケストラ活動によって培われた音楽芸術の枠を超えた様々な知識と経験は、建築芸術の世界においても有効で、建築家のスキルとも酷似することを改めて実感するのである。


ボッサ・ノーヴァ

私の音楽の浮気性にブラジル音楽が火をつけたようだ。ボッサ・ノーヴァは最高だ。ヴァイオリンを6弦のガットギターに持ち替えジョビン&ジオベルトの世界に飛び込んで5年ほど経つ。共感する仲間とバンドを組み、妻もピアノで参加する。
ブラジル音楽といえばサンバ、リオのあのカーニバルの迫力はアフリカ黒人の天性のリズムであり、多数の国民が今も熱狂する国民音楽だ。
60年代にリオの富裕層がドビュッシーなどの近代音楽の要素をサンバと合体させて始まったのがボッサ・ノーヴァだといわれる。その立役者はアントニオ・カルロス・ジョビンであった。アメリカでも大ブレイクし、モダンジャズのジャンルとしても定着した。そして今では日本が大きな市場となっているから面白い。
ちなみにヴァイオリンとヴィオラは変わらず続けている。クラシックとジャズやポップスの垣根は私には見えない。バッハを奏でるとジャズとの共通性に思いが募る。楽しい。まさに二兎を追っているわけだ。


記・南條洋雄

■第1回 建築を愛しなさい
■第2回 建築家=指揮者 
■第3回 小さな村の物語
■第4回 建築家という職能
■第5回 デザイン監修論
■第6回 まちづくりに参加する
■第7回 リノベーション最前線
■第8回 住宅が建築の原点
■第9回 美しい国づくり
■第10回 美しい職場・楽しい職場
■第11回 建築家は芸術家か
■第12回 建築家も地震と戦う
■第13回 建築家は旅をする
■第14回 マンションと呼ばないで!
■第15回 建築家という生業
■第16回 建築と神事
■第17回 建築家は外交官
■第18回 正月の警鐘
■第19回 協働・自働・己働
■第20回 建築家は二兎を追う
■第21回 コンペという魔物
■第22回 ボランティア考
■第23回 リゾートを建築する
■第24回 スケッチは楽しい