■■■建築に生きる 第26回 木とのつきあい■■■
2024.05.24
第26回 木とのつきあい
ツーバイフォー
多くのメーカー住宅が採用する枠組壁工法(いわゆる2X4)は1974年基準法改正まで第38条認定を必要とする特殊工法であった。私の父がカナダ最大の林業会社MacMILLAN BLOEDEL社の日本支社に勤務しており、私は1974年にVancouverの本社を訪ね2x4製材工場や戸建て住宅の建設現場を訪問する機会を得た。
我が国の伝統的な製材規格を根本から変える欧米規格導入は米英加の外圧で加速した。
大工棟梁に支えられてきた日本の住宅市場にあって、はじめは多くの2x4住宅は安普請の代名詞であったがあっという間に逆転し、逆に日本の伝統木造建築体系を破壊するのではと危惧された。
あれから半世紀、日本の伝統木造建築は健在だし、様々な木造の新工法も普及し、大規模な木造建築や高層化も進み話題に事欠かない。
コンクリート打放住宅が長いこと住宅建築作品の主流であったが、近年は多くの建築家が優れた木造住宅で競演している。
木をめぐる環境
短寿命とされる木造建築が、正しく維持管理されれば長寿であることは日本の伝統建築が証明している。乱伐が環境破壊と批判されたが、計画的な林業はむしろ環境保全に有効だ。豊かな林業基盤を再編することが健全な国土保全の基礎要件であり、林業が再評価されつつある。
江戸築城のため全国から集められた木材問屋が、焼け野原と化した関東大震災、世界大戦を経て木場、新木場へと歴史を重ねてきた。大阪万博では会場のシンボル大屋根リングが世界最大級の木造建築物であることや、解体後の再利用をめぐる議論などで注目されている。超高層タワー建築が木構造で検討されるなど、木に関する話題が尽きない。
健康志向が木質空間の価値を高めたが、最近は合板、突板、集成材、CLTなど様々な木質系建築資材が登場し、もはや自然素材というよりは、多彩な工業製品として開発発展が止まらない。法規制もどんどん緩和され、大規模建築も超高層建築も木造への挑戦が加速するばかりだ。
木の原点
私は木造住宅設計の専門家ではないが、木造戸建て住宅も数十棟は造ってきた。そして今、集大成として事務所のアトリエ小屋を那須高原に設計中なのだが、一般流通材(長さ4メートル)だけで大空間の架構をデザインすることに挑戦している。集成材を使えば簡単なのだが「純真」な木材とのお付き合いはこうあるべきではなかろうか?と自問する。
木には木の特性がある。木は呼吸する。気候により反り縮む。雨ざらしすれば木は腐る。私の限られた経験でも、納まりが未熟な木部は悉く腐食した。軟木あれば堅木あり、我が国の現場では、匠技がそれらを正しく使い分けてきた。
木への深い造詣をもって真摯に木とは付き合わねばならない。年輪を見る毎に生命を感じ、木に宿る精霊を思うのだ。あらためて「匠」の偉大さと「木」の崇高さを感じる。木は不滅の素材だ。生命が宿るが如し。
建物を設計して半世紀になるが、この歳になって、改めて木に対する無知を恥じる。
記・南條洋雄
■第1回 建築を愛しなさい■第2回 建築家=指揮者
■第3回 小さな村の物語
■第4回 建築家という職能
■第5回 デザイン監修論
■第6回 まちづくりに参加する
■第7回 リノベーション最前線
■第8回 住宅が建築の原点
■第9回 美しい国づくり
■第10回 美しい職場・楽しい職場
■第11回 建築家は芸術家か
■第12回 建築家も地震と戦う
■第13回 建築家は旅をする
■第14回 マンションと呼ばないで!
■第15回 建築家という生業
■第16回 建築と神事
■第17回 建築家は外交官
■第18回 正月の警鐘
■第19回 協働・自働・己働
■第20回 建築家は二兎を追う
■第21回 コンペという魔物
■第22回 ボランティア考
■第23回 リゾートを建築する
■第24回 スケッチは楽しい
■第25回 音楽は楽しい