■■■建築に生きる 第34回 インドに注目■■■
2024.09.13
第34回 インドに注目
カレーが大好き
「インドを見ずして建築を語るなかれ?」と気になっていたインドを2008年に訪問した。幕張ベイタウンでご指導いただいた蓑原敬、土田旭、曽根幸一氏らとのツアーを私が企画して。
建築都市を語る前に二つの強烈な思い出を記しておこう。一つ目はカレー。成田空港でムンバイ行きに搭乗してから帰国するまで、すべての食事がカレーであったこと。二つ目は腹痛との戦い。私以外のほぼ全員が途中で「倒れた」こと。
カレー話は私にとって歓迎話だ。昔から大好き。土田旭氏のアトリエで何度も氏が調理する激辛のカレーを味わってきたが、ご当地のカレーはそんなに辛くはない。スパイスも具も非常に多種多様である。
最初に蓑原氏が倒れた。以降、順番に倒れていく。やはり水が日本人の消化器には合わないようだ。日本から持参した消毒材も効き目は薄く、後半に妻も気絶した。私は中国の奥地もアマゾンの密林も、無事踏破してきた実績?で無傷だった。
ブルー&ピンク
ブルーシティとピンクシティ訪問が目玉だった。ジョドプールとジャイプルの2都市だ。
建築はその土地の素材でデザインが決まると講義で学んでいた。ジョドプール近郊で取れるインディゴを漆喰に混ぜるので、どの家もブルーになるらしい。ジャイプルで豊富に取れる砂岩の色合いがピンクで、町中がピンクになるという。
昔、屋根材メーカーに「なぜこんなに何色も作るのか」と批判的に質問すると「建築家が毎回新しい色を注文するから」と反論された。集落の屋根が地産材で葺かれていたころの日本の景観は美しかったが、今は日本中で色が氾濫している。
次の日に聖地ヴァラナシへと移動し、翌朝5時起きでインダス川に昇る太陽を拝む。河岸は沐浴する人でごった返し、いくつもの肉体が目の前で火葬されている。想像をはるかに超える「インド」を体感する。どの街も人で溢れ、リキシャが疾走する。街中を闊歩する野良牛もまことにインドらしい。
インド&ブラジル
ブラジリアを日本に紹介してきた私は、常にチャンディガールに想いを馳せていた。そしてやっと現地に来ることが叶った。コルビジェの都市論の集大成を地球上で体験できるのは、ブラジルとインドの二カ所しかない。ブラジリア建設はコルビジェの崇拝者オスカー・ニーマイヤーとルシオ・コスタが主役であるが、チャンディガールはコルビジェ自らが陣頭指揮したとされる。
発展途上国が新首都を建設し先進国を目指した時、欧州の最先端技術を取り入れ、自動車社会の未来を先取りしたことなど、両都市はとてもよく似ている。
皮肉にも欧州では実現しなかったコルビジェ都市論を両国が実証した。しかも自動車社会も地球環境認識も、大きく変わってしまった現在、二つの実験都市はどちらかと言えば批判の的にされている。
私はそこが不満だ。インドのこの街をブラジリアとの対比で注意深く観察できた。その分析の展開は別の項で述べたい。
記・南條洋雄
■第1回 建築を愛しなさい
■第2回 建築家=指揮者
■第3回 小さな村の物語
■第4回 建築家という職能
■第5回 デザイン監修論
■第6回 まちづくりに参加する
■第7回 リノベーション最前線
■第8回 住宅が建築の原点
■第9回 美しい国づくり
■第10回 美しい職場・楽しい職場
■第11回 建築家は芸術家か
■第12回 建築家も地震と戦う
■第13回 建築家は旅をする
■第14回 マンションと呼ばないで!
■第15回 建築家という生業
■第16回 建築と神事
■第17回 建築家は外交官
■第18回 正月の警鐘
■第19回 協働・自働・己働
■第20回 建築家は二兎を追う
■第21回 コンペという魔物
■第22回 ボランティア考
■第23回 リゾートを建築する
■第24回 スケッチは楽しい
■第25回 音楽は楽しい
■第26回 木とのつきあい
■第27回 未知の国ブラジル
■第28回 気になる伊東屋
■第29回 JIA/IAB/UIA
■第30回 首都機能移転
■第31回 建築家は車が好き
■第32回 ウェルシティ横須賀
■第33回 幕張ベイタウンパティオス