■■■建築に生きる 第36回 建築家会館■■■
2024.10.11
第36回 建築家会館
前川國男社長
青山に日本建築家協会本部があることは前回述べた。協会は公益社団法人であり、株式会社建築家会館という名の会社が所有する賃貸ビルのテナントだと知る人は少ない。
日本建築家協会の起源は1886年(明治19年)創設の造家学会であり1955年(昭和30年)に国際建築家連合(UIA)に加盟する。日本国を代表して世界大会に参加した故前川國男先生は欧米各国の建築家事情を知り、我が国にも建築家の活動拠点が必要と痛感する。先生の呼びかけで200名を超える建築家が出資し、建築家会館という名の株式会社が1961年に設立された。
1968年竣工の建築家会館ビルの設計者はコンペで選ばれた進来廉氏だったが、次点は本年95歳で他界された槇文彦先生であった。
三田に建築会館があり一般社団法人日本建築学会本部や建築関連団体が活動しているが、前川國男先生が主導された一連の建築家職能運動が、今我々建築家が活動できる基礎を築いてくれたのだ。
建築家会館のしごと
というわけでこの会社はJIA本部をテナントとする不動産会社ではあるが、建築家という職能をサポートする活動を定款にうたっている。
そのひとつが建築家賠償責任保険(ケンバイ)の代理店業務であり、多くのJIA会員事務所が加入している。建築という経済行為に建築家が関わる時、依頼主への責任を制度として支援する仕組みであり、建築士法改正で加入が努力義務とされている。
建築家という職能の中身や社会的役割などに関する出版活動も行っている。主に建築家の生き様であったり、建築文化の社会性を焦点とした出版を続けているほか、100余名収容の大ホールでは様々な建築関連イベント等も行っている。
多くの活動はJIAと密接に連携し、公益社団法人と株式会社とが「車の両輪」のように作動している。
1985年まで前川先生が社長を務められたあと、大江宏、横山公男、大宇根弘司各氏に続き2002年から8年間、私が社長職についていた。現社長は野生司義光氏で私は監査役だ。
建築家という職能
はや一年以上もこのコラム「建築に生きる」を隔週で綴っている。第一回冒頭で「わが国では『私は建築家です』と名乗ることは稀である」と本連載をスタートした。
改めて、では何と名乗るのか。昔、スピード違反で調書を取られた場面、ブラジルから帰国直後だったので「建築家」と名乗ったのだが認められず「会社役員」と書かれた。
最近、事務所に対して総務省から様々なアンケート要請があるが、南條設計室は中分類74の技術サービス業だそうだ。私は「建築家事務所」と書きたいのだが。 個人で職業欄に記載が求められる場合「建築家」はまずダメだが「一級建築士」と書くとOKがでる場合はある。「家」はだめで「士」ならよろしいようだ。で、株式会社建築家会館はどうだろう。前川國男先生が60年以上も昔にこの会社を設立された頃、まさか西暦2020年代の今日に「建築基本法」も「建築家法」も制定の目処たたず、とは予測していなかっただろう。
記・南條洋雄
■第1回 建築を愛しなさい■第2回 建築家=指揮者
■第3回 小さな村の物語
■第4回 建築家という職能
■第5回 デザイン監修論
■第6回 まちづくりに参加する
■第7回 リノベーション最前線
■第8回 住宅が建築の原点
■第9回 美しい国づくり
■第10回 美しい職場・楽しい職場
■第11回 建築家は芸術家か
■第12回 建築家も地震と戦う
■第13回 建築家は旅をする
■第14回 マンションと呼ばないで!
■第15回 建築家という生業
■第16回 建築と神事
■第17回 建築家は外交官
■第18回 正月の警鐘
■第19回 協働・自働・己働
■第20回 建築家は二兎を追う
■第21回 コンペという魔物
■第22回 ボランティア考
■第23回 リゾートを建築する
■第24回 スケッチは楽しい
■第25回 音楽は楽しい
■第26回 木とのつきあい
■第27回 未知の国ブラジル
■第28回 気になる伊東屋
■第29回 JIA/IAB/UIA
■第30回 首都機能移転
■第31回 建築家は車が好き
■第32回 ウェルシティ横須賀
■第33回 幕張ベイタウンパティオス
■第34回 インドに注目
■第35回 代官山で建築する