■■■建築に生きる 第39回 チャオ・イタリア■■■
2024.11.22
第39回 チャオ・イタリア
いざイタリアへ
2007年横浜市白根の丘の上に大規模な住宅地を設計していた。デザインコンセプトは「イタリアの山岳都市だ!」と言うと、担当者たちは口を揃えて「行ったこともないから解らない!」と言うので、すぐ全員をイタリアに連れて行った。
ローマ空港でレンタカーし、私が運転手と通訳となり山岳都市を巡り、ミラノ空港で納車し帰国した。Perugia, Assisi, Siena, San Gimigniano, Bologna ・・と濃密かつ過酷な旅だったはずだが、ランドスケープと色彩デザインの専門家たちも一緒で、一気にモティベーションは上がったはずだ。建築することが、デザインすることがこんなに楽しいことだと、成熟したイタリアの街々で実感したはずだ。 皮肉なことにリーマンショックをもろにうけ、このプロジェクトは消滅したのだが、各人に染み込んだデザイン魂が後日見事に開花したと思う。その若手達も今やベテランでデザイン最前線で活躍しているのは嬉しい。
ポ語でいける!
イタリアをかくも近く感じるようになったのは、サンパウロの二人目のボスGian Carlo Gasperiniのおかげだ。イタリア国籍の彼はイタリア財閥の仕事も多く受けており、ローマからの客人との打合せでは通訳なしでイタリア語が飛び交った。確かにイタリア語とポルトガル語は似ている。夕方の別れの挨拶チャオ!がイタリア人は朝の挨拶チャオ!なのが違和感あったが日常会話に苦労は無かった。
1998年日本の建築家仲間夫婦4組で北イタリアを旅した。ベネティアからミラノはレンタカーの陸路、その時も私が運転手兼通訳だった。事前にイタリアに詳しい陣内秀信さんに旅程を組んでもらい、パラーディオやスカルパの名作を尋ねて怪しげなイタリア語でなんとかゴールした。
途中、予定になかった小高い丘上の古城に興味を抱き立ち寄ったのが、Soaveというブドウの街であった。以来、私が唯一銘柄を指定するワインがSoave Classicoである。ミラノでの最後の晩餐は格別であった。
小さいこと良きこと
イタリアの小さな街が元気だ。若者が一度はローマやミラノに出ても故郷に戻ってくるらしい。第3回小さな村の物語でもそのことに触れた。
トレヴィーゾという街が好きだ。ヴェネティアのすぐ近くにあり、街中を川が流れる美しい人口わずか8.5万人の都市だ。しかも世界的企業であるベネトンやデロンギの本社がおかれており、街中はオシャレな若者達で溢れている。
10年ほど前に近江八幡市の将来像を議論する会に招かれ、市勢拡大を人口増に求める議論に対しトレヴィーゾの事例を紹介して反論した。近江八幡市の人口は8.2万人だから似ているし水郷の街という共通点もある。
2014年にはナポリを起点にPompei, Positano, Amalfiなど回ったが、Veneto州やToscana州同様、人口数万人の小さな街がみな素敵だ。しかも辺境の観光地ではなく、産業が根づき若者の雇用もある元気な街々なのである。日本のまちづくりは根本から道を踏み外している。小さいことは良いことなのだ。
記・南條洋雄
■第1回 建築を愛しなさい■第2回 建築家=指揮者
■第3回 小さな村の物語
■第4回 建築家という職能
■第5回 デザイン監修論
■第6回 まちづくりに参加する
■第7回 リノベーション最前線
■第8回 住宅が建築の原点
■第9回 美しい国づくり
■第10回 美しい職場・楽しい職場
■第11回 建築家は芸術家か
■第12回 建築家も地震と戦う
■第13回 建築家は旅をする
■第14回 マンションと呼ばないで!
■第15回 建築家という生業
■第16回 建築と神事
■第17回 建築家は外交官
■第18回 正月の警鐘
■第19回 協働・自働・己働
■第20回 建築家は二兎を追う
■第21回 コンペという魔物
■第22回 ボランティア考
■第23回 リゾートを建築する
■第24回 スケッチは楽しい
■第25回 音楽は楽しい
■第26回 木とのつきあい
■第27回 未知の国ブラジル
■第28回 気になる伊東屋
■第29回 JIA/IAB/UIA
■第30回 首都機能移転
■第31回 建築家は車が好き
■第32回 ウェルシティ横須賀
■第33回 幕張ベイタウンパティオス
■第34回 インドに注目
■第35回 代官山で建築する
■第36回 建築家会館
■第37回 田園調布
■第38回 アメリカ