■■■建築に生きる 第41回 ボッサな人生(最終回)■■■
2024.12.20
第41回 ボッサな人生(最終回)
ボッサ・ノーヴァ
数年前から大好きなブラジル音楽のバンドをやっている。bossabossaと呼び8名編成で私はギターとMC担当、妻がピアノを受け持つ。
ボッサ・ノーヴァは1950年代にリオで誕生した新しい音楽で、土着のサンバを起源とする新しい動きであり、日本では先日亡くなったセルジオ・メンデスの名が知られている。
そしてボッサ・ノーヴァといえば小野リサさんの国際舞台での大活躍に敬意を表したい。昨年リオのライブハウスの歌手にきくと彼女の大ファンだという。ブラジル人のボッサ歌手が、である。その小野リサさんとは親しい間柄で、昨年は彼女の新居のインテリアを南條設計室でお手伝いした。
このコラムでいろいろ呟いてきたが、私にとって「建築する」ということは、あのボッサ・ノーヴァの楽曲のように非常に「清々しい」のだ。職務とか残業とか苦行などとは程遠い、ひたすら楽しく、止めろといわれても止めたくない、楽しくてしょうがないのが建築なのだ。
ブラジル噺
2015年5月に自伝「ボッサ・ノーヴァな建築考」を上梓した。あれからまもなく10年が経とうとしている。続編に取り組んでいたのだが結果を出せない焦りの中、短編コラムで建築への思いを綴るに至ったのだった。途絶えることなく一年半、第40回まで快調に進めることができたところで、ひとまず最終回とします。
振り返ると「ブラジル噺」が非常に多い。それだけ私の建築家人生にブラジルの存在が重要である証だろう。
隔週の金曜日朝10時にアップすると、真っ先にブラジルの友人たちから「いいね!」が却ってくる。現地時間木曜日夜10時にポルトガル語に自動翻訳されて読まれるのだ。2022年末にはブラジリアにて大阪万博ブラジル館の設計案を審査していた。昨年の夏には20名の仲間たちとアルゼンチンからブラジルを縦断した。まだまだ私のブラジル噺の引き出しには未公開の話題がたくさん眠っている。建築、都市、建築家、そして人生へと拡がる。広大な国土と多人種社会ならではの「生き様」なのだ。
建築に生きる
そんな建築を趣味道楽ではなく、自らの職業にできた幸せな人生を謳歌している。遊び=仕事。遊びに残業はない!
建築を職業に選んではや半世紀を超え、多くの家、多くの街かど、多くの都市・地域を作り上げる仕事に参加することができた。もちろん冷や汗ものの事件にも遭遇はしたが、なんとか軟着陸してきた。そして多くの人々に結果を喜んでいただいていることが何よりも嬉しい。
そこが建築家という立場が、芸術家とも実業家とも異なる特徴であろう。建築や都市を生み出し、その結果は人の、社会の、そして地域・国家の舞台となって、経年的に人々の幸福に貢献し続けるものであり、建築という行為は人類の「文化」そのものなのである。
その視点に立った発言を繰り返してきた。建築家は指揮者であり、映画監督であり、社会に奉仕する立場にある。だから、次の人生も建築家でありたい。「建築に生きる」ことの喜びをブラジルで学んだ。
記・南條洋雄
■第1回 建築を愛しなさい■第2回 建築家=指揮者
■第3回 小さな村の物語
■第4回 建築家という職能
■第5回 デザイン監修論
■第6回 まちづくりに参加する
■第7回 リノベーション最前線
■第8回 住宅が建築の原点
■第9回 美しい国づくり
■第10回 美しい職場・楽しい職場
■第11回 建築家は芸術家か
■第12回 建築家も地震と戦う
■第13回 建築家は旅をする
■第14回 マンションと呼ばないで!
■第15回 建築家という生業
■第16回 建築と神事
■第17回 建築家は外交官
■第18回 正月の警鐘
■第19回 協働・自働・己働
■第20回 建築家は二兎を追う
■第21回 コンペという魔物
■第22回 ボランティア考
■第23回 リゾートを建築する
■第24回 スケッチは楽しい
■第25回 音楽は楽しい
■第26回 木とのつきあい
■第27回 未知の国ブラジル
■第28回 気になる伊東屋
■第29回 JIA/IAB/UIA
■第30回 首都機能移転
■第31回 建築家は車が好き
■第32回 ウェルシティ横須賀
■第33回 幕張ベイタウンパティオス
■第34回 インドに注目
■第35回 代官山で建築する
■第36回 建築家会館
■第37回 田園調布
■第38回 アメリカ建築と私
■第39回 チャオ・イタリア
■第40回 ガウディそしてバルセロナ